初志貫徹!

我が家には子どもが3人いる。みな成人して社会人だが、それぞれに受験があった。

受験期は子どもの体調管理に注意を払うが、何より精神状態が不安定になるからとにかく気を遣う。そしてもう一つ大変なのが、塾代の工面だ。これは本当に苦労した。だから塾を立ち上げるとき、受講料の設定には悩んだ。

小論未来塾は、授業の延長料金は請求しない。基本は90分だが、それが120分になろうと、緊急対策で3時間や4時間を超えようと、出願に合わせなくてはならないのなら、時間などに気を取られている場合ではないからだ。

受講料は回数制だから、回数が少なければ受講料も安くなる。で、回数を減らすために大幅な授業延長をしたり、短時間の無料補講を入れたりして工夫している。でも、授業が3時間超えになると、さすがに集中力が切れる。私は物書きだから長時間の執筆に慣れているが、生徒は朦朧もうろうとしてくる。それでも書き上げねばならない場合は、授業を続ける。本当は私もヘトヘトだ。

だが、しかしなのである。授業料を払う保護者が気になるのは、内容よりも回数と総額のほうだ。私もそうだった。

回数は完成を想定して、できる限り最低ラインぎりぎりのところで算出する。なるべく授業の追加をしないよう心掛けている。それでも先だって、保護者から授業の回数を減らして欲しいと言われてしまった。教科を教える予備校とのダブルスクールでは、塾代は相当に家計を圧迫する。だから親の気持ちはよく分かる。以前には、授業ではなく無料補講を増やしてほしいと言われたこともある。むむ……、それはさすがに話が違う。

受講料は確かに高いと思われるかもしれない。だって基本は1回1万円。しかし、私の授業は基本の90分じゃ終わらない。雇われ講師をしているときも、サービス授業をたびたび注意された。生徒に不公平だし、時間を守ることもプロ意識。

そうなんだよね、でもさ、小論文慣れをしていない生徒は、文章表現どころか、志望理由書に何を書いて、どう構成を組み立てればいいのかも分からない。集団授業で教えても、それぞれ自分の志望校に当てはめて書くことができない。書けても内容が薄くて中味がない。漠然として具体性もない。だから授業が終わった後、生徒が質問をしてくると、個別に相談に乗ってしまう。時にこちらから呼び止めて、内容を煮詰める。

代筆は替え玉受験と同じだから、土台は生徒が書かねばならない。それを添削で修正する。もちろん仕上げるまでに、1回や2回では済まない。

それで塾を立ち上げた。とことん生徒に関わり合って、生徒も講師側も納得して出願できる内容にするまで角突き合わせて原稿を練る。

だから、時間は瞬く間に過ぎていく。時には面接練習までしてしまう。事務所経費や交通費を差し引いて、時間で割って、持ち帰りの添削指導を入れたら、言いたかないけどパート代の時給にも及ばない。外部講師に頼めば、当然、足が出てしまう。

経営者になって、運営の難しさを思い知った。

3人の子育てで私自身が子どもの塾代に四苦八苦した経験から、抑えられる費用は削減しようと思っていた。入塾金は取らない。事務所を構えず、授業はレンタルオフィスで経費を削る。だからといって、講師料はボランティア感覚にならないよう、人に頼んだときに納得できる相場に。

だが塾をスタートしたとき、持続化給付金で作成したチラシ見た保護者から電話が掛かってきた。最初の問い合わせだった。

言われたのは、「高い授業料ね、詐欺みたい、あなた大学院を出ているの?」

え? 私は返す言葉を失った。いきなり何なんだ。

「で、何を教えてくださるの?」

は? 私は相手が何を知りたいのか、咄嗟とっさに理解できない。

小論文講座ですから、志望理由書の書き方や小論文テストの対策や、面説指導なども……確か、そんな返答した。

すると相手は「考えさせて頂くわ」と言って、あっさり電話を切った。

あらぁ~、これって問い合わせの電話だったの?

しかし、私はしばし考え込んでしまった。

塾を立ち上げるまでにも嫌な思いは沢山あった。一緒にやろうと言っていた知り合いは、口先だけだった。真に受けていた自分が阿保らしく思えた。塾の設立準備時に、手伝わせてと言っていた講師にプロフィールを確認したら、勝手に書いたら訴えてやると捲し立てられたこともあった。まだ確認段階なのに……。

商工会議所で専門家のアドバイスを受けても、塾経営に携わったことのないコンサルタントは、自分の知識をひからかすだけ。なんだい、なんだい、どいつもこいつも自分勝手で、プライドと損得勘定ばかりじゃないか。

一介の小論文講師が独立なんて、夢のまた夢、このまま人に使われて、こっそりサービス授業で生徒の役に立っているほうがどれほど楽か。

だが、立ち上げまでは夫のヒデッチが一緒に動いてくれたことで、何度も気持ちがブレながら軌道修正ができた。

「ゼロからのスタートなんだから、問題があって当たり前だよ。だけど、塾を立ち上げて何をやりたいのか、その目的を見失ったら意味がないよ」

私が落ち込むと、ヒデッチは毎度同じことを言った。

今もそうだ。

だから私は、問題があると、いつも、必ず、原点に立ち返る。

小論未来塾の、目的は何か? 講師として、生徒に何ができるのか? 今後、どうあるべきなのか?

小論文講師には、子ども達の未来を切り拓く使命がある。小論未来塾は、徹して子ども達の頑張りを後押しする。受験システムがどう変わろうと、今も未来も私は生徒に寄り添い伴走し続ける。

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